千雨と蟻と小銃と 38-5


 カップをソーサーに置く。アフタヌーンティーと洒落込んでいたが、どうにも落ち着かない。手ずから焼いたクッキーも会心の出来の筈が、味がぼやけている。
「はぁ~」
 天ヶ崎千草は、盛大に溜め息を吐き、テーブルの上で脚を大きく動かし、身振り手振りよろしく喧しく話す白い蟻を見下ろす。誰も相手をしてくれないのか、暇つぶしのターゲットになってしまったようだ。やることなら山ほど有るはずだろうに、ついさっき見たと言う警官達のやり取りをそれはもう雄弁に語っている。それ処では無いはずだ。千草は呆れを包み隠さず、アナセスから視線を外した。

新年の挨拶2013

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 開けましておめでとうございます。とは言ったものの、三十代にもなると年が明けたところで、たいしておめでたくもなく、ますます給料に見合わぬ責任を背負わされ、忙殺される日々になるかと思うと暗澹とした気分になってしまうオギカドカヤです。
 思いっきり愚痴から始まりましたが、それでも人間は環境になれる生き物なので、連載を再開しようと思います。とはいえ毎週更新出来るかどうかは、まだ未知数ですが……。それでも書かないことには始まらないので、かなり見通しの甘い見切り発車することにしました。

 と言うわけで、今年も一年よろしくお願いします。 
                                              オギカドカヤ

千雨と蟻と小銃と 38-4


「それは犯人が捕まったところで変わりますか?」
 低くゆったりとした声だったが、小島はぞっとした。新見の表情に変化はない。ただ視線はぐっと握りしめて震える拳を見つめている。
 息を呑んだ。いくらでも綺麗事は吐ける。しかし、そんなうわべだけの答弁など出来なかった。いまの彼の前ではそんなこと口が裂けても言えない。

お詫び

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 ちょっと洒落になら無いぐらい忙しく、当分の間、週更新はできそうにありません。
 暇を見つけて、執筆してるのですが、どうにも仕事のことが気になって、集中できないでいます。むしろちょっと時間があれば仕事をしてしまう始末です。
 社会人でありながら、五年間、ほとんど休みなく更新して来たことから分かるように、仕事人間ではないはずなのに……

 そう言うわけで、申し訳ありませんが、どうぞご了承ください。
                                                  オギカドカヤ

千雨と蟻と小銃と 38-3


「本当に」
 反射的に返しながら、小島は新見に釣られて苦笑した。顔の皮膚の引きつりに、自分が緊張しているのがありありと分かる。勢いだけで前に立ったが、なにを言えばいいのか、頭の中は真っ白だった。
「…………」
「…………」

お詫び

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 現在、多忙につき、今週の更新はお休みさせていただきます。
 ご了承下さい。

                                         オギカドカヤ

千雨と蟻と小銃と 38-2


 緩やかに流れる景色から目を離し、手元の携帯電話に視線を落とした。電話もかかってこなし、メールも返って来ない。小島は胸の苦しさを覚えてシートベルトを緩めたが、解消される事は無かった。
「かかってきませんね」
 ハンドルを握る阪井が前を向いたまま言った。目は忙しなく周囲の情報を搾取するのに使用されている。とはいえ、前に車は走っておらず、後ろにも車はついていない。それどころか人通りもなく、とてもうら寂しい。こんな風景を見ていると、余計に気が滅入ってしまう。

千雨と蟻と小銃と 38-1


 薄暗い廊下の突き当たり、いまにも蛍光灯が切れるのではないかと、思うほど空気は重く暗かった。
「……はい、……はい」
 周囲を気にして押し殺された返事が繰り返される。魔法を使っているので感づかれる心配は無いのだが、それでも心情から堂々とはできなかった。あまり、いや、まったく嬉しい電話では無い。
「……申し訳ありません」

千雨と蟻と小銃と 37-8


 カッチカッチと振り子時計が正確に時を刻む音にカチャリと異音が交ざる。来客が退出した。聞き慣れたものだったが、酷く懐かしく感じる。
 学園長室にいるのは久方ぶりだ。たった数日だが、酷く離れていた気がする。ここで寝泊まりしていると言っても過言では無いから、余計に郷愁を感じさせるのだろう。やらなければいけないことは山ほどあるが、近衛近右衛門は肘掛けに手を置き、背を揺すると椅子に浅く座り直し、少し感傷的になった。

千雨と蟻と小銃と 37-7


 カリコリと板書の音が響く。一時間目の授業は数学だった。テストも来週と迫り、教師はちょっと焦っているように神楽坂明日菜には見受けられた。
 筆記の手を止め、パラパラと教科書を捲る。テスト範囲と教えられたページまであと十ページ近くある。黒板横に張り付けてある時間割に視線を向けると、残り三時間。間に合うのだろうか。そんなことを心配してしまう。