千雨と蟻と小銃と 11-3

 
 自分達の行動が筒抜けだと言う事を知らぬまま、ネギと神楽坂は軽快に走っていた。
「よし、じゃあ、チャッチャとその親書とかゆーの、届けちゃって厄介事を片づけるわよ、ネギ!!」
「ハイッ アスナさん」
  神楽坂が掛けた言葉に、元気良く答えるネギ。そんな二人をアナセスは声を掛けずに見ていた。当然、アナセスはすでに敵に知られていることを知っていたが、黙っていた。
 そんなネギ達の後をつけ、物陰に隠れているが者がいた、宮崎のどかだった。宮崎はゲームセンターから、ずっとつけていたのだった。
 ネギ達が気付かなくても、アナセスが気付くはずだが、アナセスがネギにつけていた端末は自動操作になっていた。そのため、アナセスは気付くのに遅れるのだった。

 ゲームセンター内、桜咲は離れたところから近衛を見守っていた。近衛は実に楽しそうにゲームをしている。桜咲にとっては至福と時であった。そんな、桜咲だったが一瞬、表情が曇った。懐から人型の呪符を取り出すと、呪を紡ぎ飛ばした。

「ほな、ウチ等も動くで、月詠と新入りはお嬢様を頼むで」
「わかりました~~」
 白髪の少年は無言で頷いた。
「行くで」
 天ヶ崎は学生服の少年と悪魔を引き連れて、ネギ達を追った。
 月詠達は作戦を開始する。
「ウチは近くで見張りますね~~」
 月詠はそう言って、呪符を取り出した。昨日、重症を負っていたはずだが、声や動作からはそのような感じはしない。やはり、一日で完治させるさせるだけの術者がついていたようだ。
 呪実は月詠が路地から出て行くのを見届けて立ち上がった。呪実の標的は、初めから白髪の少年に絞られていたのだった。
 少年が路地から移動しようと振り返った。
 少年の目が見開かれる。目と鼻の先に呪実が立っていた。
「……ッ!!」
 少年が何言おうとしたときには障壁が破られ、宙を舞っていた。
 呪実は右拳を突き上げたまま、少年を視界に入れた。呪実も少年を追って飛び上がる。
 少年はトンボを切って空中に浮遊し、無詠唱で準備した石の槍を呪実、目掛けて放った。
 呪実は石の槍を左ストレートで迎え撃ち砕いたが、跳躍を殺され落ちていき、地面に着地した。
「昨日といい今日といい蹴りや拳を身体に入れられることがあるなんてね」
 少年が呪実を睨みながら見下ろしながら言った。
 呪実も少年を目を細め睨みつける。
 幾ばく、睨み合いが続いたが、先に少年が動いた。少年の姿が残像すら残さずかき消えた。
 少年は呪実の左後に移動していた。気付いた呪実は左腕で防御しつつ、体の向きを変えようとしたが、少年はかまわず、防御した左腕の上から、攻撃を加えた。 
 呪実が一メートル程飛ばされたが、右手を地面に突き刺し無理やり止めた。
「石の槍」
 わずかな時間ですでに少年は次の攻撃に転じていた。少年の足元から大量の石の槍が呪実目掛けて迫り出してくる。石の槍らが呪実の姿を覆いつくす。少年は手ごたえが無かったため周囲を探った。
 少年の死角から貫手が迫る。少年の周囲に障壁が張られるが、呪実の貫手は障壁などに左右されず突き進む。貫手が少年の胸を穿った。しかし、少年の姿は水となって周囲に溶けた。
「ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト」
 呪実の頭上より詠唱の声が聞こえる。
「小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ」
 呪実がそちらを向くよりも早く魔法が完成した。
「石化の邪眼!!」
 呪実、目掛けて光線が発射される。呪実は後に跳躍して避けようとするが、光線が呪実の動きに合わせて迫ってくる。避け切れなかったのか、呪実は光線を浴びてしまった。光線を浴びたところから瞬時に石化していく。
 少年は少し離れた所に着地して、その様子を見ていた。
 完全に石化したとき、少年の首が掻き切られ、胸に包丁がつきたてられていた。
 出刃包丁を両手に逆手で持った呪実が少年に密着した状態で身体を震わせ、声を出さずに哂っていた。
 少年は目を見開き、自らの状態を見る。胸元が濡れていた。少年の前方にあった呪実の石像が崩れ、砂煙を上げる。
 呪実は胸に突き刺した包丁を、一度捻じってから引き抜いた。少年はそのまま倒れ、地面に衝突すると水が飛び散り、少年の姿はなかった。
 呪実の持つ包丁にはこぶし大の水晶球が裂けた状態で辛うじて突き刺さっていた。
 呪実は砕けないように丁寧に水晶球を外すと、その場を後にした。

 ネギ達は関西呪術協会の総本山に向けて移動していた。総本山までは少し離れているために、電車を利用して行く。電車の中は閑散としており、ネギ達の乗った車両にはネギ達以外誰も乗っていなかった。ただ、隣の車両には宮崎が乗っているのだった。
「でも、スミマセン、アスナさん。こんなことにまで付き合ってもらっちゃって」
 ネギが申し訳なさそうにしていた。
「だよなー、普通の女子中学生の姐さんが、何でこんなに協力してくれんだい? 朝倉の姉さんの話だと、元々、ガキ嫌いがポリシーだったみたいじゃねーか」
「レッドは意外と面倒見がいいの」
 カモは誰にも聞こえないように小声で話していたがアナセスには聞こえていたみたいだった。
「へっへっへっ、もしかして姐さん、ネギの兄貴に……はべべぼ!?」
 調子に乗ったカモが、神楽坂によって口を塞がれた。
「何、バカ言ってんのよ。フツー十歳のガキが危険なことしてるの放っとけないでしょ」
 神楽坂が少し照れくさいのか頬が赤くなった。
「……それにあたしはねぇ……いっしょーけんめいがんばってる奴はガキだろーがなんだろーが嫌いじゃないの。悪い?」
「悪くはないの。それでも十歳のガキが危ないからって、十五歳のガキが命がけで助けようとも思わないの。レッドは偉いと思うの……実力に見合ってないけど……」
「あんたは一言多いのよ」
 神楽坂がアナセスを掴もうとするが、アナセスがそれを交わす。そんなやり取りが続いたが、アナセスが避けた手がカモを引っ叩いた。
「ひでーぜ、姐さん……」
 カモが電車の扉に張り付き、滑り落ちた。
「あんたもいい加減掴まりなさい!!」
「いやなの」
 アナセスはネギの頭から移動して肩を目指す。頭から肩に行くには頭の横を通らなければいけない。アナセスが移動をするたびに神楽坂の狙いも当然変わる。丁度、アナセスがネギの側頭部に踏み出したとき、神楽坂の手が狙い済ましたように、風を切りながら迫った。
「甘いの」
 アナセスがギリギリ交わした。神楽坂の手はそのまま、ネギの側頭部を叩いた。スピードがあり、何より、障壁を無効化したのでネギの頭が持っていかれた。
「大丈夫!? ネギ」
「だ、大丈夫です」
 言葉とは裏腹に倒れはしなかったがネギの足は笑っていた。
「レッドはすぐに手が出るの。その辺は直したほうがいいの」
 アナセスは小刻みに揺れながら言った。
「あんたはーー!!」
「止めといたほうがいいの。次はさすがにネギが倒れるの」
「あんたが避けなきゃいいんでしょ」
 そう言って、アナセスと神楽坂の追いかけっこが目的地の駅に着くまで続いた。
 
 関西呪術協会総本山、ネギ達は口を開けて、鳥居を前に立ち止まっていた。
「ここが関西呪術協会の本山……?」
「伏見神社ってのに似てるな」
「うわ~、なんか出そうねー」
 三者三様の感想を述べた。アナセスだけが感想も述べずに鳥居の先を見ている。少し緊張しているようだった。
「ここの長に親書を渡せば任務完了って訳だな」
 そんなことをカモが言っているとき、ネギ達に近づいて来る淡い光があった。
「神楽坂さん、ネギ先生大丈夫ですか」
 ポンッと音を発てて、掌サイズの二頭身程の桜咲刹那が現れた。
「なっ……!? 何よアンタ」
「せ、刹那さん?」
「はい、連絡係の分身のようなものです。心配で見に来ました。ちびせつなとお呼びください」
「はあ」
 そう言ってちび刹那はお辞儀をした。そんな様子を見て、気の抜けた返事しか出来ないネギ達だった。
「この奥には関西呪術協会の長がいると思いますが……」
 ちびせつなは説明を始めたが横からカモが前足で邪魔をする。ちびせつなはカモの前足を払いのけると説明を続けた。
「東からのネギ先生が歓迎されているとは限りません。ワナなどに気をつけてください。一昨日や昨日のこともありますので、奴等の動向はわかりませんし……」
『アナセス、今ガキ共どの辺りにいる』
 ちびせつなが説明をしているときにアナセスにも連絡が入った。
『ちょうど、総本山に乗り込もうとしているの』
『呪実が白髪と戦闘になった』
『どうなったの?』
『呪実が勝ちはしたが、ただの出来の悪い人形だった。多分他の奴らにも戦ったことがもう知れ渡ったと思うから、十分に気をつけろよ』
『気をつけるのはねぎ達なの』
『まあ、そうなんだけどな、敵もそれなりに本気で来ると思うからな……そう言うことだ。奇襲されないように見張りぐらいはしてやれ』
『わかったの』
 連絡を終えたアナセスは何かを言おうとしたが、ネギ達が一応、警戒はしているのだろうが、駆け出した。
「ちょっと、待つの」
 アナセスを聞いていないのか鳥居入り口から三十メートル位駆けた。そして、急に止まって並ぶ鳥居の影に実を隠した。
「な、何も出てこないわよ」
「変な魔力も感じられないです」
「い、いけるんじゃないの? コレって」
「あなせすの話を聞いて欲しいの」
「何よ後にして」
「……よおし、一気に行っちゃいます」
「OK」
 ネギと神楽坂が鳥居の陰から飛び出した。
「あ、二人とも油断は禁物……」
 ちびせつなもそんな二人の行動に注意を促した。
「こんな経験ないからかもしれないけど駆け抜けるのはダメだと思うの」
 アナセスもあきれ気味だった。
 石段を走っていくネギ達、最初に異変を感じたのはアナセスだった。
「おかしいの!! ワープするの」
 その言葉に二人が止まった。
「ハァハァ、ど、どうしたのよ……」
「どうしたんですか? アナセスさん」
 ネギ達は何事かとアナセスを見た。
「だからワープしてるの、さっきからあなせすの位置が同じ位置を延々動いているの」
「私が見てきます」 
 ちびせつなが飛び出していった。
「アスナさんはそこで待っていてください」
 ネギがちびせつなを追い掛ける。
「ちょっと、待ってよ!? こんなとこで一人にされても困るわよ!!」
「大丈夫なのその内来るの」
「さっき言ってたワープのこと」
「そうなの、後を見て欲しいの」
 後を向いた瞬間、神楽坂は何かにぶつかってしりもちをついた。
「もうっ! 痛いわね」
「スミマセン、アスナさん」
 ネギも倒れこんでいた。
「やはり、ネギ先生横の竹林から脱出を試みます」
「う、うん」
 ネギはすぐに立ち上がると竹林に消えて言った。
「無駄なの」
「やっぱり……後から来るのよね?」
 そう言いながら神楽坂は振り返り、ネギ達が戻ってくるのを待った。神楽坂の目にネギの姿が見えた。ネギのほうも神楽坂の姿が見えているようだった。
「間違いないようですね……これは無間方処の呪法です。今、私達がいるのは、半径五百メートル程の、半球状のループ型結界の内部つまり……閉じ込められました。この千本鳥居の中に」
「ちょっとどーすんのよ」
「全然、気づかなかった」
「お二人がドンドン行ってしまうからです」
「だから待ってていったの」
「あんた気付いてたんなら先に言いなさいよ!!」
「罠なんか知らないの! 武器持って駆け出すほうがおかしいの。まずは注意深く調べるものなの!!」

 ネギ達がもめているころ、ネギ達を見通せる位置に天ヶ崎達は陣取っていた。
「へへへっ、あっさりワナにかかったやん」
「さっき、新入りから連絡あったけど、やっぱ所詮はガキやな」
 二人は竹林の上からネギ達を見下ろしている。
「これで脱出不可能、足止めはOKや。アンタは奴等を見張っとき」
「ええーー、めんどいな。それに俺。こーゆー地味な作戦好きやないなぁ……あいつら強ないで、正面からガツンといてまえばえーやん」
 学生服の少年は自らの不満を告げた。
「あんたは黙ってゆーこときーとき、ええか、アンタは足止めが役目やから手ーだしなや、ウチはお嬢さまのほう行って来る」
 天ヶ崎がそう言うとこの場から離れた。
「俺ハズレ引いたんやないか? あっちのほうがおもろそうやんけ」
 
 ネギ達は脱出の為にいろいろと試していた。
「兄貴! 空から脱出だ」
「う、うん」
 ネギが杖に跨り、見る見る上空へと上がっていく。
 地上から見上げていた神楽坂達が、ネギの姿を確認できなくなってから少しして、地面から出てきたネギにぶつかった。
「まずい状況になったの」
 アナセスは背後で行なわれている醜い争いを無視して打開策を考える。
『ちさめが来てくれればすぐにすむけど、来てくれるわけないの』
 後で話しているネギ達も桜咲に来てもらうと、アナセスと同じようなことを考えていた。
  


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