千雨と蟻と小銃と 37-1


 その時刻に目が覚めたのは習慣からだった。神楽坂明日菜は、微睡みながらもむくりと上半身を起こし、少し間を開けて目を限界まで見開いた。
 眠気などもう微塵もない。体内時計が寝坊と告げたからだ。
 信じられない。明日菜が食い下がる。間違いよね、と異議を唱えるが無情にも首を振られた。それでも縋るように明日菜は枕元に置いてある目覚まし時計を乱暴に掴み、針の位置を確かめた。違わない。午前四時を過ぎている。
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千雨と蟻と小銃と 36-13


「どうされました?」
 ドアに手を掛けようとしたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、うん、とふり返った。言っている意味が分からない。
 怪訝に見遣ると、絡繰茶々丸がジッと凝視している。新しい身体に変わり人にソックリになった彼女だが感情は読み取れなかった。

千雨と蟻と小銃と 36-12


 頭が痛いのはこっちだ。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは顔を歪める近衛近右衛門から視線を逸らして、目元を揉んだ。知らないとは言え、なにかちょっかいを掛けて、踏まなくていい尾を踏んだりしたら……
(私はこれからバケモノと一戦しなければいけないと言うのに)
 近右衛門ではないが問題ばかりが増えていく。後にして貰えばよかった。なまじ付き合いが長く譲歩したのが間違いだったのだろうか。

千雨と蟻と小銃と 36-11


 いつもと変わらない。傲岸不遜を絵に描いたような面構えを浮かべて、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは足を組んで深々とソファに座っていた。これから行われる事に何一つ緊張を感じてはいない。そういった様相だ。
 ただし、それは彼女の事をよく知らない者がもつ感想だろう。この場に長谷川千雨なりが激励でもしに来ていたら、それを指摘していたに違いない。事実、エヴァンジェリンは、らしくもなく緊張を抱えていた。

千雨と蟻と小銃と 36-10


『やっとお婆さんの登場なの』
 アナセスの声は弾んでいた。他人事だからだろう。期待感が半端ではない。キョロキョロと医師団に視線を這わせている。声の出所がどこか探しているのだ。その一挙手一投足のすべてに彼女の感情が言い現れていた。すなわち楽しんでいる。
 そんな使い魔に長谷川千雨の心情は複雑だ。目前で狼狽えるちいさな千雨がこれからどんな目に遭うのか、そのすべてを知っている。当たり前だ。これは千雨の記憶なのだから。
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