千雨と蟻と小銃と 35-3


「これで大丈夫なのよね」
 ちらりと神楽坂明日菜が振り返る。魔法刑事達はまだあの場所に佇んでいた。
 火村は電話を掛け、小川は自分達をじっと見ている。帰りを見守っているのかも知れない。学生の姿もちょこちょこ増えてきた所だ。この状況で再び怪物ムカデが出現したらと懸念しているのだろう。
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千雨と蟻と小銃と 35-2


 ヒステリックに叫び終わり神楽坂明日菜が長谷川千雨に聞いた。
『ねぇ、なんでいちいちこんなことしなくちゃならないのよ?』
『そいつらは魔法使いつっただろ。おっと表情に出すなよ』
 流石に学習して先に注意しておく。それでも明日菜は一瞬怪訝な表情を浮かべ、わずかな変化を読み取った火村と小川が互いに目配せする。なにが行われているのか知られていると思っておかなければならないだろう。

千雨と蟻と小銃と 35-1


(まだ週が始まったばっかりだって言うのにすっごく疲れたわ)
 神楽坂明日菜は寮へと続く川沿い道を一人歩いていた。心中で呟いたことが、表情、いや、全身から滲み出ている。
 原因は昼休みに見た衝撃映像にあった。あの後は大変だった。興味本位から開いたそれは、いま思い出してもぞっとするものだった。一緒に見ていたクラスメイト達は見た瞬間、倒れる者、トイレに駆け込もうとした者、その場で吐く者、と阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していた。

千雨と蟻と小銃と 34-11


 長谷川千雨は、適当にそこら辺にあるパイプ椅子に手をかざした。来客に対して自分で椅子の用意しろ、そう言われてもエリザベート・D・タルボットはちょっと苦笑するだけで従った。
 自分に無防備に背を向けるエリザベートの姿を千雨はじっと観察する。歩く姿もそうだが、なにからなにまでいちいち様になっている。一瞬見せた昔の面影はもうなりを潜めていた。
『ホンマ変わり過ぎや』