千雨と蟻と小銃と 34-5


「ジジイ、なんのようだ。急かしてもそう簡単にできるものではないぞ」
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはそう言いながら敷居を跨いだ。病室内は相変わらず書類で溢れかえっている。
 それらと格闘していた近衛近右衛門は、手にしたボールペンを置き、「遅かったのう」と挨拶とも呼べぬ挨拶にもクシャリと顔を歪めて笑った。だが、そんな表情も、エヴァンジェリンの後ろに付き従う絡繰茶々丸を見て、一瞬で驚きに変わった。
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千雨と蟻と小銃と 34-4


 麻帆良中央病院は人でごった返している。昨夜の集団失神で運ばれた者達によってロビーが埋め尽くされていた。その誰もが怪我を負っている。
 そんな中、小島も壁に背を預けて順番待ちをしていた。やることがないので他の怪我人の様子を視界に写しながら、ぼんやりと考え事に耽っていた。
(何が起こったんだろう)

千雨と蟻と小銃と 34-3


(本国の動きがやけに速い……)
 高畑・T・タカミチは先ほど挨拶を交わした男の事が頭から離れなかった。
 冷たい感じのする男だ。まったく血潮を感じさせない。ぎょろりとした目。鉄で出来た爬虫類のような男は、ロバート・アレキサンダーと名乗った。会話はそれだけだったが、その佇まいと口調から冷徹と判断させるには十分だった。

千雨と蟻と小銃と 34-2


「火村さん」
 振り返ると長谷川千雨の件でチームを組むことになった高畑・T・タカミチが、手に新聞とコンビニのビニール袋を下げていた。
 火村の視線が新聞に向けられる。なぜなら火村も新聞を読んでいたからだ。タカミチがどの社の新聞を手にしているの非常に興味がわいた。彼はきっと自分と同じようにその新聞を買ってきたに違いないと火村は考えていた。