千雨と蟻と小銃と 29-3


(魔法なんて本当にあるんだ)
 咄嗟に出た言葉だったが、新見の驚き具合にそれが真実であると思えた。小島はよくある麻帆良の数多ある噂話ひとつを口にしただけだった。なんら確証はない。ただ不思議な事、常識の範囲外のことを伝えることとして魔法と口にしたのだった。
 その驚きに小島自身が冷静になる。先程までのやり取りが脳裡を掠め、興奮気味に声を荒げたため周辺住人に不審者たちと思われないか心配になり目がキョロョキョロと動き、辺りを確認し始めた。
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千雨と蟻と小銃と 29-2


 遅めの昼食を取り捜査に戻ろうとしたところ、いつのまにか姿を消していた火村を捜して、小島は麻帆良署内を歩き回っていた。
 こんな凶悪事件が起きていてさぼる暇は無い筈なのだが、火村の姿は見つけられない。
 さぼっているか、といった考えが脳裡を過ぎるが、そんなことを本気にすることはなかった。それでも捜しているのは、もしかしたらという信頼の無さからだろう。

千雨と蟻と小銃と 29-1


 麻帆良学園の地下には広大な地下空間が広がっている。その全体像を完全に把握しているのはこの都市の最高責任者である近衛近右衛門ぐらいであろう。もしかしたら彼でも把握しきれていないかもしれない。この都市ができて、まだ百年程度しか経っていないにも拘らわずだ。
 そんな事を思って超鈴音はふと頬を緩めた。彼女がいるのもその構造体の中のひとつで、管理しきれていれば今ここにはいられないはずだからだ。そうなるとここの最高責任者でもすべてを把握していないことになる。

千雨と蟻と小銃と 28-7


 長谷川千雨は緊張感を解きほぐす様に強張った顔を崩して、「ハァ~~」と長くも短くもない溜息を吐き出した。
 その仕草を仕方がないと肯定しているように見て取った神楽坂明日菜たちが続く言葉にジッと耳を傾けている。
 さあ、と言わんばかりに急かしてくる視線を浴びながら、千雨は口を閉じ、目だけでぐるりと見回した。