千雨と蟻と小銃と 28-1


 健康な二人が保健室で休めるわけもなく。長谷川千雨とエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは茶道部の部室にいた。
 保健室には一応行ったのだが、事件のせいか気分が悪くなった者たちが数多くおり、ベッドで休むという事は出来そうにもなく、エヴァンジェリンが所属する部活が使う茶室に無断で御邪魔したのだった。
 この部屋は授業で使うということもなく誰にも邪魔されないため、さぼるには絶好の場所だ。
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千雨と蟻と小銃と 27-5


 上司から被害者の周辺――職場の聞き込みを任され、麻帆良学園本校女子中等学校に来たのはいいが、そこで信じられないものを見てしまった。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル――職業柄知らないわけがない。数多の異名を持つハイ・デイライトウォーカー。取り下げられてはいるが六百万ドルの賞金首だ。今でもその存在は魔法界では恐怖の対象となっている。

千雨と蟻と小銃と 27-4


 朝のホームルームを告げる鐘が鳴り響き、か細い呻き声が交ざる。誰の声かは分かりきっていたが長谷川千雨は声のする方に振り返った。
 そこには腕枕に頭を乗せ、歯を食いしばり、涙を浮かべて悶絶するエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの姿があった。
 結局、彼女の治療は行なわれなかった。クラスメイトたちがエヴァンジェリンの症状を見ている。それが自分に話しかけた途端に治ったとなると面倒臭い事になると千雨は判断したのだ。

千雨と蟻と小銃と 27-3


 麻帆良学園本校女子中等学校の門をくぐりながら、長谷川千雨は昨日とは打って変わった学校内の様子を観察していた。
 いつもの朝の風景とはまったく違っている。空気がまず違う。周りにいる生徒たちからは事件の実感がヒシヒシと伝わってくる。皆今起きている事件が、本当に身近なものだと理解したのだ。普段なら友人たちを見つけた学生たちは口々に挨拶を交わし、昨日見たテレビなどの他愛のない話題でうるさい位に盛り上がっているのだが、今日は口に出すのもはばかれると言わんばかりに形を潜めている。しかし、それでも話題に上らないわけがなく、不安を共有するかのように雨の中、肩を寄せ合い小声で話し合っていた。