千雨と蟻と小銃と 13-5


 綾瀬夕映が膝から崩れ落ちた。フツノドウケンは引き抜かれていない。首筋に向かって徐々に自重で裂けていく。
 長谷川千雨は血を流しながら、感情の読めない表情で見ていた。千雨は一体何を思っているのだろう。この場に居る誰にも分からなかった。
 長瀬楓はペタンと腰を落として、呆然としている。
「フフッ、残念だったわね」
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恋情奇譚 00


 欠けた月と星を薄い雲が覆う冬空の下。 
 二人に会話は無い――ただ、無言で対峙している。
 口火を切ったのは地上で見上げる少女だった。
「本当に君はそこに立つの好きだよね」
 言葉に微妙に呆れた感が含まれている。

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千雨と蟻と小銃と 13-4


「で、龍宮、何時まで私を見張っておくつもりだ?」
 長谷川千雨は龍宮真名をただ見つめた。そこからは何も読み取れない。
「私を警戒するより、早く助けに行った方がいいぞ。何か始まったようだからな」
「……」

千雨と蟻と小銃と 13-3


 長谷川千雨達は、今まで関西呪術協会の中を歩いてきて、初めての男の石像と対面していた。関西呪術協会の長、近衛詠春だ。
「さてと――始めるか」
 千雨が指を弾くと、詠春の中心において魔法陣が展開され、もう一度指を弾いた。

千雨と蟻と小銃と 13-2


 音を全く立てずに着地すると、周囲に誰も居ないことを確認して長谷川千雨は背後を見上げた。
 視線の先では眼鏡をかけた千雨が、ちょうど窓を閉めていた。
「じゃあ、行くか」
 千雨はもう一度周囲を確認して軽く一歩を踏み出すようにして、塀を飛び越えた。